南禅寺の金地院を訪れました。
金地院は、南禅寺の南にある塔頭寺院。徳川家康の参謀として活躍した以心崇伝(いしんすうでん)が中興した寺で、崇伝の力の大きさを表すがごとく、塔頭でありながら貴重な建物や庭が伝わります。「鶴亀の庭」と呼ばれる枯山水庭園は国の特別名勝で、小堀遠州の設計した庭として確実なもの。長谷川等伯の猿猴捉月図(えんこうそくげつず)や茶室・八窓の席は、事前申込で拝観ができます(当日可能な場合もあり。拝観料500円+特別拝観700円)。
以心崇伝は、京都に生まれ各地の寺で学んだ後、1605年に南禅寺の270世となりました。南禅寺の復興に携わる一方、家康の信任を得て外交と宗教にかかわる立案を担当することになると、1610年には南禅寺住持を辞し、家康の顧問・側近として専念。武家諸法度を作成して大名を統制し、禁中並公家諸法度を定めて朝廷の政治介入に大幅な制限を加えたほか、寺院法度を作って各宗寺院を厳格に統制する仕組みを構築しました。そして崇伝は、家康から臨済宗の寺院と僧を統括する僧録司に任じられ、絶大な権勢をふるいます。一方で、その権力によって自坊である金地院にも伏見城からの豪華な建物が移築をされ、庶民からは「大欲山気根院僭上寺悪国師」と揶揄されました。
現在、明智門のある場所には、かつて伏見城から移された唐門がありましたが、明治期に豊国神社へと移され、国宝建築として現存しています。かわりに大徳寺からは、明智光秀が残した資金で建造された明智門が移されました。そして金地院の境内には家康を祀る東照宮があります。家康の遺言により建てられたもので、拝殿の天井には狩野探幽の龍の絵が描かれているのも注目です。土佐光起による三十六歌仙もかかります。
方丈に面した特別名勝の庭園は、「鶴亀の庭」のとおり向かって右に鶴島が、左に亀島が向かい合うように配され、特に鶴島には象徴的な鶴首石が伸びています。この庭は以心崇伝が徳川家光を招くために造らせたとされ、小堀遠州が設計したことが確かにわかる庭として貴重です。現地で眺めると、周囲には電線やマンションが全く見えず、緑の木々に囲まれた空間は昔と変わらないのではと思わせてくれます。家光がこの庭を眺めることはありませんでしたが、鶴亀のめでたい意匠をこうして目にできるのは眼福です。機会がありましたら、訪れてみて下さい。
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吉村 晋弥(よしむら しんや)
京都検定1級に3年連続最高得点で合格(第14回~第16回、第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として10年以上。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2020」監修。特技はお箏の演奏。