5月に入り、上賀茂神社・下鴨神社の行事が始まりました。葵祭として15日の華やかな路頭の儀が知られていますが、馬を競争させる競馬(くらべうま)も見どころの一つです。
上賀茂神社の競馬会神事の本番は5月5日に行われますが、1日はその時に出走する馬の組み合わせを決める「足汰式(あしそろえしき)」が行われました。本番では2頭の馬が、右(右方)と左(左方)に分かれて走りますが、先んじて足汰式で馬の優劣を見定めて、当日の組み合わせを決めるのです。まず1頭ずつ走る「素駆(すがけ)」が行われ、出走順を決める「番立(ばんだて)」が行われると、本番さながらに決まった組み合わせごとに2頭ずつ走ります。
5日の本番では、左方(さかた)は赤い装束、右方(うかた)は黒い舞楽装束を着て競い、初めの組は必ず左方が勝つことが慣わしとなっています。それ以外の組では真剣勝負が繰り広げられますが、トータルで左方の勝ち数が多い年は豊作になるといわれています。その昔は、競馬のために朝廷から上賀茂神社に寄進された全国各地の荘園から、それぞれ選りすぐりの駿馬が出され、勝った馬を出した荘園は豊作になると考えられていました。今でも馬が呼ばれる際は「○○の国 ××荘」とアナウンスがあり、古来からの名残が見られます。
競争といえばスタートは同じ場所からが一般的ですが、賀茂の競馬(くらべうま)では、スタート時に差をつけて走り、勝負の判定地点でその差が広がれば前の馬の勝ち、縮まれば後ろの馬の勝ちとなります。スタート時の差は1馬身が目安だそう。しかし実際には馬が暴れたりもするため、そうそう上手くはいかないようです。
鞭のタイミングもある程度決まっており、馬場には鞭打つタイミングの目安として「鞭打ちの桜」が植えられています。他にも、スタート地点には「馬出しの桜」、決着地点には「勝負の楓」、出走前に馬上姿を整える場所には「見返りの桐」と、ユニークな呼び名がついた木があります。
馬に乗る「乗尻(のりじり)」は、ベテランがいたり中学生がいたりと様々。今年はなんと小学6年生の子もいました。しかし、乗尻になるには単に馬に乗れればよいのではなく、様々な作法も覚えなければなりません。特に年少の乗尻は一生懸命に努力を重ねてきたそうです。馬の評価のポイントは単に速さだけではなく、乗尻の馬上での作法も対象となって、上の上から下の下までの9段階で評価されます。
古くからのしきたりによって、最初に走る「美作国倭文庄(みまさかのくに しどりのしょう)」と二番目の「加賀国金津庄」は順番が決まっており、しかも美作国倭文庄が勝つことになっています。足汰式での評価も、両者は必ず「上の上」になります。この2頭はかつては江戸幕府から献上された馬だそう。中でも美作国倭文庄は京都所司代の馬だそうで、ひいきをしたということのようです。他にも走る順番や荘園によっても細かい作法は違っていて、まさに古式を今に伝える行事です。
馬の疾走するスピードは目の前で見ると非常に早く感じます。有料席に入ると、まさに目の前で見ることができておすすめ。馬の駆け抜ける勢い、乗尻の勇ましい掛け声などは、動画もありますのでご覧下さい。出走した馬には、私の実家に近い岐阜県(美濃国脛長庄)からの馬もいて親近感を持ちました。呼ばれる荘園の名は全国からありますので、出身地の馬を応援してみるのも面白いかもしれません。本番の競馬会神事は5月5日の13時からで、馬が走り出すのは14時頃から。上賀茂神社の神事は解説が充実しているため、大変に分かりやすいです。4日には斎王代女人列禊(みそぎ)神事が、今年は下鴨神社で行われます。5月は葵祭の行事が目白押しです!
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。8年ぶりに受験した第13回京都検定で再度1級に合格し「京都検定マイスター」となる。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2017」監修。特技はお箏の演奏。