2月8日の雪。南山城の古刹、岩船寺と浄瑠璃寺まで足を延ばして、雪景色を眺めてきました。
14日も関西の広範囲で大雪となりました。京都府南部では18年ぶりに大雪警報が発表。奈良県でも24年ぶりの大雪警報となり、奈良で積雪15cmを記録しました。これは1996年の17cm以来、18年ぶりの15cm以上の数字となりました。一方、京都市街地では雪がそれほど積もっておらず、円町にある気象台では最大4cmにとどまりました。
私も、朝から夕暮れまで京都中を巡ってきましたが、僅か数km距離の違いで積雪量が想像以上に大きく違っていることに驚かされました。東山では10cm程あったものが、東寺まで来ると3cm程度です。これはヒートアイランドにより都市部の気温が高いことが最たる要因で、アメダスで見ても京都の気温が周辺部より高いことが分かります。その差は僅か0.5℃~1℃程度ではあるものの、この僅かな気温差によって雪が積もる量が大きく変わってきます。雪予想の難しさを改めて実感しました。なお、普段は積もらない洛南での降雪機会ということで、貴重な雪景色の数々を眺めることができました。近日中にご紹介していきます。
さて、前回8日の雪。この時も近年では珍しく南部の広範囲で積雪となりました。石清水八幡宮と一休寺の雪については前回までにご紹介しています。一休寺のあと、JRで向かったのは「加茂駅」。ここから岩船寺・浄瑠璃寺を目指します。が、予定していたバスはなんと大雪のため「運休」との情報が目に入ってきました。しかし、ここまで来て黙って帰るという選択肢はありません。迷わずタクシーで向かいました。
岩船寺と浄瑠璃寺では、岩船寺の方が標高が高く、道路にも次第に雪が見え始めます。加茂駅では雨だった天気も、岩船寺では雪に変わってきました。それだけ標高が上がっています。岩船寺に着くと、辺りはもうすっかり雪に包まれ、昼過ぎというのにまだしんしんと降り続いていました。雪の日にここまで来るのは大変ですが、境内には以外と人影はありました。この日は土曜日で、実は奈良駅から浄瑠璃寺までのバスが動いていたため、徒歩で登って来る方もいらっしゃったようです。
岩船寺の創立は奈良時代にまでさかのぼり、寺伝によると聖武天皇の発願で行基による開創といわれ、最盛期には広大な境内に39の坊舎がありました。しかし承久の乱で大半が焼失し、再興されたお堂も再度の兵火によって徐々に衰えて、江戸時代初期には十棟程度まで減ってしまいます。その後、庶民から寄付を集める僧が現れたり徳川氏の寄進によって本堂や本尊の修復がなされて復興。その再び荒れますが、昭和18年に三重塔が修理され、本堂は昭和63年に落慶したものです。
境内で目を引くのは、朱色が鮮やかな三重塔。室町時代に建てられたもので、東山の八坂の塔(1440年)とほぼ同時期の1442年の建立です。2003年に大修復が完了し、往時の色彩を取り戻しました。山中に佇む姿が美しく、朱色が映える雪の日はなおさら趣を感じられました。この眺めを見たいがために、わざわざここまでやってきたのです(笑)
岩船寺の三重塔は、なんと周りの高い場所から、二層目・三層目と同じくらいの目線で見られてしまうという特徴もあります。こうして塔を少し高い場所から間近で見られる場所はなかなかありませんので、貴重なロケーション。塔の屋根を「反発心」で支えている天邪気(あまのじゃく)の頑張りも近くで見られます。雪の中に佇む塔は、見れば見るほど美しいと感じました。
岩船寺のご本尊は平安時代の丈六の阿弥陀如来で、平等院より107年も古いものです。周りを四天王が囲み、荘厳な雰囲気のある仏様。本堂内部はぐるりと回ることができ、裏側の十二神将を始め数々の仏像を比較的近くで、ゆっくりと眺められるのがこのお寺の特徴です。引き締まった冷たい空気の中、雪の降りしきる境内で静かに向き合う仏様。大原・三千院の往生極楽院に雪の日に訪れた時と似通った、なんとも言えない「ありがたさ」を感じます。南山城の自然に囲まれた寺々には、貴重な仏像が多数残っており、仏像好きの方は是非訪れたいエリアでしょう。この春に京都国立博物館で「南山城の古寺巡礼」という特別展もありますので、今から楽しみです。
さて、岩船寺の周辺は当尾(とうの)と呼ばれる地域で、石仏(磨崖仏:まがいぶつ)が多くある場所です。道に突然現れる石仏はなんとも不思議な光景。昔の人々は険しい山道を歩きながら手を合わせていたのでしょう。この日は、雪道を通って岩船寺から浄瑠璃寺を目指しました。急なくだり坂もある道で、雪の日は滑りやすくおススメはしません。通称「笑い仏」と呼ばれる阿弥陀三尊磨崖仏は、雪の中でも微笑んでいました。写真では左に傾いていますが、これは石仏自体が左に傾いているからです。
浄瑠璃寺に着くと、空から降るものは雨に変わってきました。岩船寺とはそれだけ標高差があり、かつ雨か雪の違い、積もるか積もらないかの違いはたいへん微妙です。浄瑠璃寺も雪に包まれ、参道に咲いていたロウバイが香り、雪の中で透き通るような黄色の色彩が映えていました。浄瑠璃寺の境内に入ると、本堂である九体阿弥陀堂の枯淡な佇まいに趣を感じます。
浄瑠璃寺の創建には不明な点が多いのですが、平安時代末期に末法思想が流行った時期に建てられたと考えられています。国宝の阿弥陀堂は、当時京都に多数建てられた九体阿弥陀堂の唯一の遺構で、堂内には人が極楽往生に至る9つの段階に応じた9体の阿弥陀如来像が、今も金色の輝きで残されています。約1000年前の仏様が、恐らく当時と変わらぬ並びで目の前に残っているという歴史の深さ。何度足を延ばしても感動させて頂きます。
庭園は浄土思想を取り入れており、西に阿弥陀堂、東に薬師如来を祀る朱色の美しい三重塔があります。もともと寺の創建時の本尊は薬師如来と考えられており、薬師如来の浄土である薬師瑠璃光浄土から、寺は浄瑠璃寺と呼ばれました。薬師如来は、病といった現世の苦しみを除き、阿弥陀如来は来世で極楽浄土に導いて下さる仏様。当時の人々の信仰が目に見える形で現れたお寺といえるでしょう。
私が訪れた時間帯は、三重塔の周りの木々の雪は融けていましたが、三重塔の前から阿弥陀堂を振り返ると池の前に配置された灯籠と合わせて趣を感じる光景が広がっていました。実は毎月8日は薬師如来像の開帳日だったのですが、残念ながらこの日は大雪のため扉は閉じられていました。期待していただけに残念です。雪の日はこうしたことがあるのも致し方ないでしょう。浄瑠璃寺へは、加茂駅からのバスのほか、JR奈良駅・近鉄奈良駅からのバスもあります。浄瑠璃寺は地域柄、奈良とのつながりも深いため、そちらから訪れてもよいでしょう。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。