大晦日の京都 西陣の除夜の鐘


2012年から2013年にかけての年越しは、西陣のお寺で除夜の鐘を聞きながら迎えました。西陣は除夜の鐘の密度が高く、あちこちから鐘の音色が聞こえます。動画もありますので音色の違いをお楽しみください。

京都市内にあるお寺の数は平成22年現在で1677寺を数えます(仏教の宗教法人数)。その全てが除夜の鐘を撞いたら・・・、それはもう大変なことが起こりそうです。学生時代の私はそんなことを考えていましたが、実際に初めて京都で年越しをしてみると、その静けさに驚きました。京都はもちろんお寺さんの数は多いものの、そもそも鐘を持っていないお寺も数多くあり、また鐘の音もそれほど遠くまで聞こえないため、京都の大晦日は意外と静かです。

ただ、西陣界隈はこの”常識”から少し外れています。寺之内通沿いはその名の通りお寺が多く、西陣織で栄え財力があった街には、立派な鐘を持っている日蓮宗のお寺がいくつもあって、大晦日はどこからともなく、鐘の音が聞こえてきます。今回は、妙顕寺・妙蓮寺・本法寺・本隆寺・興聖寺・千本閻魔堂の6カ寺で除夜の鐘を聞いてきました。なお、昨年は知恩院・永観堂・相国寺と、報恩寺の「撞かずの鐘」の音色を聞いてきました。動画もありますので、よろしければご覧ください

さて、西陣の除夜の鐘。私の独断と偏見では、妙蓮寺の鐘の音は市内有数の美しさだと思います。動画では、あまり伝わらないように思いますが、実際に耳にすると惚れ惚れとする美しさ。学生時代からお寺の前を通っていましたが、撞いている様子を見たことがありませんので、この音色が聞けるのは除夜の鐘だけなのかもしれません。機会があればぜひ聞いてみて下さい。妙蓮寺では鐘を撞くのに整理券を配っているものの、撞く順番は列に並んでいる順番です。この夜も地域の方の長い列が伸びていました。なお妙蓮寺の鐘楼は、袴腰型と呼ばれる美しい形をしていて、天明の大火でも焼けずに残った貴重なものです。鐘は鐘楼に上って撞くことができます。

妙蓮寺の北にあるのが興聖寺。観光寺院ではありませんが、水火天満宮の例祭やお茶会などで境内に入ることができます。古田織部のお墓があることで御存じの方もおられるでしょうか。また、相国寺と同じような「鳴き龍」があるお寺でもあります。さて、除夜の鐘の音が聞こえてきたので境内に入ってみました。お寺の方にお聞きしたところ、事前予約で撞くことができるとのことでした。なかなかよい音が響きます。この興聖寺と妙蓮寺は、23時台から鐘の音が響きます。

一方、妙顕寺は新年に日付が変わってから撞き始めます。こちらは一般の方でも撞くことができ、整理券が現場で配られています。西陣のお寺は地元密着のお寺が多く、境内の雰囲気は和気あいあいとしています。新年最初の鐘はお寺の方が撞かれ、その後整理券の順番に沿って一般の方が撞いていきます。

小川通と堀川通に面した本法寺でも、日付が変わる頃から鐘が撞かれ始めているようです。こちらも鐘を撞くための列が長く伸びていました。境内では無料でぜんざいが振る舞われていて、冷えた体には甘さが沁み渡りました。焼けずの寺として知られる本隆寺でも除夜の鐘が撞かれます。こちらでも体を温めてくれる粕汁の振る舞いがあります。鐘は、撞木の位置の関係上やや撞きにくそうではありました。他の寺と同じように多くの方が並んでいます。

最後は、千本閻魔堂。お盆に先祖を迎えそして送るために撞かれる、迎え鐘・送り鐘としての鐘がありますが、除夜の鐘でも撞くことができます。整理券があるようですが、終了後も希望者は撞くことができ、私も撞かせて頂きました。ちょうど私が訪れた時は、閻魔堂内で法要が行われ、修験者による法螺貝の音が響き渡っていました。閻魔様の前で、法螺貝を聞いて迎える新年も味がありますね。真夜中の閻魔堂内はやはり雰囲気があります。閻魔像は応仁の乱からほどなくして作り直されたもので、戦国時代には宣教師のルイス・フロイスが訪れて記録を残しています。壁にはかすかにフロイスが見た阿鼻叫喚の地獄絵がかすかに残っていますが、現在は不鮮明なおかげで恐ろしさは感じずに済んでいます。

ここからは余談です。千本釈迦堂では除夜の鐘はありませんが、ご本尊が開帳されており、新年早々から拝ませていただけました。また、普段は閉まっている経王堂の扉も開いていて、中に並べられた「おかめ御幣」が印象的でした。室町時代、全国66カ国の内11もの国で守護を務め、”六分の一衆”と呼ばれた山名氏清が反乱をおこしますが、足利義満によって鎮圧されました(明徳の乱)。その義満が氏清を弔うために建てたのが経王堂で、かつては三十三間堂のなんと2.5倍もの巨大な建造物が存在していたのです。しかし幕府の衰退とともに建物は老朽化。ついに江戸時代の初めに、もとの木材を使って千本釈迦堂の境内に現在の小堂を建てなおし、経王堂は縮小されました。私もお堂の中を見るのは初めてで、新年早々ありがたい思いでした。それでは各地の除夜の鐘の音色をお楽しみください。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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