鴨川のユリカモメ 冬の風物詩


京都の鴨川の冬の風物詩といえば、ユリカモメです。

ユリカモメは、この時期に鴨川へ行くとずいぶんと見かけます。その名の通りカモメに似た白い鳥で、集団で行動をする渡り鳥です。その数を長年にわたって計測している「ユリカモメ保護基金」のホームページによると、近年京都で見られる数が減り続けていましたが、2010年・2011年は再び増加しています。しかし、それでも往年に比べると、半分以下にまで減っています。

彼らは、ロシアのカムチャッカ半島から、はるばる約3000kmを旅してくる渡り鳥で、晩秋になると姿を見かけるようになります。鴨川での見ごろは1月いっぱい。暖かくなる春になると次第に北の故郷へと帰っていきます。彼らの食欲は旺盛で、餌をやる人は鳩よりも荒々しく囲まれてしまうこともあります(笑)また、この時期に行われる琵琶湖疏水の水抜きを知っているのか、干上がった疏水に降りてはせっせと餌をついばんでいます。鴨川では洛北から洛南までのかなり広い範囲で彼らを見かけます。今年も近年並みに来ているようです。

ユリカモメといえば、平安時代の初期に書かれた「伊勢物語」の「東下り」の場面に出てくる「都鳥」として、古文の教科書にも載っていることで有名です。原文の抜粋は以下の通り。

なほゆきゆきて、武蔵の国と下つ総の国との中に、いと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。(中略)さるをりしも、白き鳥の嘴と脚と赤き、しぎの大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡しもりに問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、『名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと』とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。

ここに書かれている外見の特徴から、都鳥はユリカモメのことだといわれています。面白いのは当時の京都にはユリカモメがいなかったこと。ではいつから見られるようになったのか??これはかなり最近で、1974年(昭和49年)1月のこと。この時は2か月ほど滞在をしていなくなったそうですが、その後、渡来するのはだんだん早くなり、帰っていくのは次第に遅くなって、近年では5月頃まで見られるそうです。

彼らは日本では繁殖をしておらず、故郷のカムチャッカ半島で初夏に卵を生み、夏にかけて子育てをします。実はこのことがわかったのは、カムチャッカで雛に足輪を付けてその後の行動を観測したところ、京都の鴨川にも足輪を付けたユリカモメが飛んできたからでした。ユリカモメは鴨川だけではなく日本各地で見られ、足輪を付けたユリカモメは他の場所でも見つかっています。彼らが冬になると南下してくるのは、故郷のカムチャッカでは水辺が厳しい寒さで凍結してしまうためで、餌を求めてはるばる旅をして来るのです。お腹をすかせてくるのでしょうから、食欲が旺盛なのも頷けますね。春に帰るためのエネルギーも蓄えねばなりません。

さて、1000年も前には関東にいたことが分かる「都鳥」ですが、平家物語でも平家が都落ちをし、さらには福原の都を焼き払って西海へと下る場面で、平家の人々が波の上に白い鳥が群がっているのを見て、伊勢物語の場面を思い出し、都を下った男(業平)の思いを感じ取る場面が描かれています。ただ、季節は初秋。ユリカモメの時期には少し早く、平家物語で書かれている「都鳥」はユリカモメかどうかはわかりません。

現在、鴨川で見られるユリカモメは夕方になると、ねぐらにしている琵琶湖へと飛んでいきます。その光景は雄大で、鴨川の上に大きな鳥柱を作って見事な円を描きます。先日眺める機会がありましたが、夕暮れの寒空に舞いあがっていく様には感動すら覚えました。ただ、今年は様子が違っているようで、つい先日の京都新聞の記事によると、鴨川で長い間夜を明かしているグループが見つかったそうです。やはり生き物。毎年行動が同じとは限らないのでしょう。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

「鴨川のユリカモメ 冬の風物詩」への2件のフィードバック

  1. ユリカモメは夏羽が冬と違いますね。京田辺市に住んます。鳥さん好きな30代女性です。

  2. 2017年12月22日昼、府立植物園南入口西側付近の賀茂川に、
    今年初めて、ゆりかもめ先発隊と思われる7羽を発見しました。
    北大路橋上の上賀茂エリアでは、年々到着が遅くなり数も減少
    しています。毎冬飛来を待ち焦がれる住人の一人として、
    残念に思っています。鵜の常住、気象の変化、堆積物増加等に
    よる餌の減少が原因かと想像していますが、どうなのでじょう?
    ともかく今冬もそれなりに楽しめそうです。

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