大悲閣千光寺は、天龍寺側から渡月橋を渡った岸(南側)を1kmほど上流へ行った場所にあります。川をさかのぼっていくと次第に渡月橋は見えなくなり、そこはもう普段の嵐山とは別世界。観光地の喧騒から解き放たれた空間となります。千光寺は、道の突当たりになる険しい階段の参道を登った場所にあります。やはり絶景を望むには、相応の苦労が必要ですね。
大悲閣千光寺は、松尾芭蕉に「花の山 二丁のぼれば 大悲閣」と句を読まれたこともあり、古くからその見事な眺めで知られていました。寺は、元は清凉寺の西にありましたが、江戸時代のはじめ、保津川を開削した角倉了以(すみのくら りょうい)によって、河川開削工事で亡くなった関係者の菩提を弔うために現在の地に移されています。
本尊は千手観音菩薩像で、観音菩薩の大きな慈悲を表す「大慈大悲」という言葉から、寺は「大悲閣」とも呼ばれています。現在は黄檗宗の禅寺で、寺の山号は「嵐山」。まさに嵐山に立っているお寺です。本堂内には角倉了以の像も置かれています。眼光は鋭く、手には石割り斧を持って坐したお姿。江戸時代のはじめ、朱印船貿易などで富を得た角倉了以は、私費で保津川を開削し、丹波との船運を開きました。京都では高瀬川、全国的には富士川の大工事でも知られています。了以は自ら石割り斧を持って開削に加わったとされ、千光寺の像は遺命によって作られました。了以は晩年に琵琶湖から疏水を引く計画を立てていたとされますが、その実現は明治時代に果たされることになります。(ただし、了以の案は瀬田川・宇治川を開削して、伏見から高瀬川で京都と結ぶというものです)
さて、絶景は2012年に新しくなった客殿から眺めることができます。この日は中には入れませんでしたが(景色が外の廊下から望めました)、以前と変わっていなければ拝観者が感想を各ノートや、読書のための本も並べられていて、思い思いの時間を過ごすことができる場所です。客殿からは、遠くは比叡山や大文字山などの東山の山並みを望め、仁和寺の五重塔も見えます。京都タワーは山の陰で見えませんが、清水寺は備え付けの双眼鏡を使えば見ることができるでしょう。下を見れば保津川の渓谷が広がり、タイミングがよければトロッコ列車が通っていく場面も眺めることができます。
現在は周囲の山々が素晴らしい紅葉に包まれて、京都屈指の雄大な紅葉の風景を望むことができます。お寺の方曰く、今(26日)が紅葉のピークから下り坂に入り始めたころだそう。お早めに訪れてみてください。この時期は対岸の嵐山公園の展望台に立つ観光客も多く、それぞれ絶景を望むことができます。
境内には柴犬の「すみれちゃん」が歩いていることがあります。この日も姿を見せてくれて、とても愛らしかったです。お寺の方にお聞きすると、お年は10歳と高齢になりつつありますが、まだまだ元気で観光客を和ませてくれるでしょう。触ると噛む(甘噛み)場合があるそうですので、見守るだけにしておくのがよさそうです。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
第15回・第14回京都検定1級(合格率2.2%)に2年連続の最高得点で合格。気象予報士として10年以上。京都検定マイスター。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳」監修。特技はお箏の演奏。