祇王寺は嵯峨野では屈指の人気を誇るお寺です。まさに多くの方が憧れる「京都らしい風景」に出会える場所の一つでしょう。春から夏は、とにかく緑が美しく、自由な曲線で幹をのばす楓が趣を感じさせてくれます。秋は紅葉が素晴らしく、特に”散り紅葉”が高い人気を誇っています。祇王寺は苔も一級品で日々水をまいたり落ち葉をはらったりしてその美しさが保たれています。
祇王寺は平家物語で名高い白拍子「祇王」ゆかりの寺です。時の権力者、平清盛の寵愛をうけた祇王でしたが、同じ白拍子の「仏御前」が清盛の屋敷に現れて、舞をお目にかけたいと申し出ます。清盛は門前払いをしようとしましたが、祇王が取りなして仏御前は今様を歌えることになりました。仏御前は声も節もたいへん上手で清盛はたちまちのうちに心を動かされ、仏御前を屋敷に住まわせると、寵愛は祇王から仏御前へと移っていきました。
ついに祇王は屋敷を追い出されることになり、出て行く前に屋敷の障子に「萌え出づるも 枯るるも同じ 野辺の草 いづれか秋に あはではつべき」と書き残して寂しく去っていくのでした。春の萌えいずる若葉に仏御前を、枯れゆく秋草に祇王自らを重ねながら、栄枯盛衰はあれどいずれも同じ「野辺の草」だから、やがて「秋(清盛の飽き)」を迎えて枯れ果てて行くと詠んでいます。
祇王と妹の祇女、そして母刀自(とじ)の三人は髪を剃って尼になり、嵯峨の山里、今の祇王寺の地で仏門に入って過ごしました。そしてしばらく時が過ぎ、三人が念仏を唱える日々を送っていたところ、竹の網戸を叩いてある人物がやってきました。なんと清盛の寵愛をうけたはずの仏御前です。仏御前は追い出されてしまった祇王の不幸を思うにつれ無常を感じ、ついには屋敷を飛び出て尼となって訪ねて来たのです。こうして4人は、この世ではなく来世での幸せを願い、念仏三昧の日々を過ごして、みな往生を遂げたと伝わっています。そうした世を忍んだ女性たちの物語が伝わるのも人気の秘密かもしれません。この時期の境内は空いていますので、ぜひ、ゆっくりと時を過ごしてみてください。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2016」監修。特技はお箏の演奏。