11月の京都は火焚祭が各地の神社で行われます。火焚祭は有名な神社のみならず、地元の小さなお社に至るまでほぼ全ての神社で行われていると言っても過言ではなく、珍しいものでもありません。しかし、焚かれる火焚串の組み方が神社によって様々で、個性を楽しめるお祭りでもあります。神社によっては中風除けの焼けたミカンを授与して下さったり、火焚饅頭やおこしをいただけるところもあります。
この時期に火を焚くことで秋の収穫に感謝をし、穢れのない神火で氏子の願いが書かれた火焚串を焚き上げることにより、厄除けを願う行事ともなっています。貴船神社は鴨川の水源地にあり、水の神を祀る社として古くから朝廷をはじめ人々の信仰を集めてきました。水の神の神社で火を焚くというのは一見異様ですが、実は古事記などで神々の由来をたどれば、貴船神社の祭神である水の神は、火の神であるカグヅチから生まれたとされているのです。火を鎮められるのは水であり、水と火は一見相反するようで、実は深い繋がりがあると考えられているのです。貴船神社の火焚祭は燃え盛る炎から貴船の神が生まれるという「よみがえり」を果たす意味もあるそうです。
神社では7日11時から本殿で神事が行われました。神事は厳かに粛々と行われ、途中で舞の奉納も行われました。火が焚かれるのは本殿の下の手水舎の前あたりで、既に火焚串がかまど状に組まれていました。私が見て来た火焚祭の中でもさすがに立派な火床でした。神事の最中は本殿前に参拝ができないとあって、火床の周りには人が次第に集まっていました。
50分ほどの神事のあと、いよいよ神職らが火床の前に下りてきて、火焚が始まりました。まず祝詞を奏し、続いて本殿から運んできた神火で火種をとり点火します。火は程なく燃え広がって、またたくまに辺りは熱っぽくなります。火が点くと火床を取り囲むように並んだ神職により大祓詞(おおはらえのことば)が唱えられ、鈴が振られました。燃え盛る炎はかなりの熱さがあり、次第に参列者や神職らも後退するほど。そして消防の人たちは炎が大きくなり過ぎないように水をかけたり、杉の枝をかぶせるなどしてコントロールしていました。炎に近いため危険な仕事だと感じましたが、貴船は水の神。不思議と安心して見ていられます。
10分余り大祓詞が唱えられたあと、今度は一般の方に神社に奉納された火焚串が配られて、火に投げ入れることができました。皆さんこぞって参加されます。平日ですが参列者も多く、一時かなりの人の圧力となりました。ひとしきり串が燃えると、最後に鈴を参列者の頭にかざして厄払いを行い、火焚祭は終了となりました。火が点く場面だけを見るのでしたら、11時45分頃に来られれば十分かもしれません。例年紅葉が美しくなるころの行事ですので、よければ足を延ばしてみてください。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。特技はお箏の演奏。