雪の鞍馬山 木の根道から魔王殿


27日の京都。北部山沿いで雪が積もりました。前回のブログでは鞍馬山の山中で雪景色に出逢ったところまでお届けしました、今回はその続き。鞍馬寺から山を越えて、木の根道奥の院を経て貴船神社まで足をのばしました。

鞍馬寺から山に入り、昼でも暗いところから名付けられたといわれる「鞍馬」の名も偲ばれる道を抜けて行きます。奥の院を目指して標高500mの最高点までやってきました。こちらには「背比べ石」があります。牛若丸は7歳から10年間、この鞍馬山で昼は学問に励み、夜は奥の院まで出かけて武芸の修練を積んだそう。その後、商人に誘われて奥州へと下る際、鞍馬山との名残を惜しんで、この石と背比べをしたといわれています。

ここから大杉権現社への道は「木の根道」です。ちょうど日が射し、きらきらと舞う雪が輝いて荘厳な雰囲気となりました。複雑に入り組んだ木の根には、白い雪が積もって美しい模様を描いています。牛若丸もきっと、このような光景を見ていたのでしょう。

大杉権現社の付近はとても静かで、辺りは美しい木々に覆われ、林の中に現れる社の佇まいにも趣があります。名前の由来となった大杉は、昭和25年の台風(恐らくジェーン台風)によって倒れてしまいましたが、辺りは今でも瞑想道場としてベンチもあり、風の音や鳥のさえずりを聞きながら、山中にふさわしい自然に包まれた空気を感じることができます。

元の道に合流して、不動堂へ。この辺りは山を駆け抜ける風の音が大きく聞こえます。ゴォ~!という例えも今一つ違いますが、普段聞くことの無い音。にもかかわらず、木々に覆われた山道は比較的静かで、大きな音がしているのが不思議なほどです。付近は僧正ヶ谷と呼ばれ、謡曲・鞍馬天狗の舞台。牛若丸はこの地で天狗から武芸の指南を受けたとされています。古人がこの場所に天狗を想像したのも、きっとこうした雰囲気を感じたからなのでしょう。本当にこの不動堂の付近だけ、他と音が違っていました。一応、最後に動画もありますので、私が現場で感じた雰囲気とはずいぶんと違ってはいますが、なんとなくでも感じて頂ければ幸いです。

義経堂を参拝して、魔王殿へと向かいます。この道中にも木の根道があります。魔王殿という刺激的な名前から、若者を中心に訪れる人も多い場所ですが、いたって普通の御堂です。魔王とは、鞍馬寺の本尊である尊天の一角をなす護法魔王尊のこと。鞍馬山はお寺の創建以前から、大地を司る護法魔王尊の力に満ちた場所といわれ、その護法魔王尊は今から650万年前、人類救済のため金星から降り立ったとされています。またの名はサナート・クマラ、年齢は永遠に16歳なのだとか。魔王殿にはそうした神が降り立った「磐座(いわくら)」が祀られています。ちなみに本殿で見られる護法魔王尊の御前立は、天狗に似たお姿をされています。また、狩野元信が描いたとされる護法魔王尊の姿が秘仏としてあり、次回は2046年に公開される予定。いったいどんなお姿なのか。是非、見てみたいものですね。

さて、魔王殿を後にして、貴船に向かって一気に下ります。下りでも険しい坂道。登るのは相当の覚悟が求められます。巡る順番を、貴船から鞍馬か、鞍馬から貴船かといわれれば、私は鞍馬から貴船のコースを推奨します。地図では貴船から魔王殿までも近そうに見えるのですが、なんのなんの、つづら折りをしのぐ厳しい山道。特に気軽に来たカップルでは喧嘩の元になりかねませんので、よく注意をしておきましょう。また、山道ですので、地面が乾いていないと足元も泥で汚れます。この日は下りるほどに雪は解けて行き、貴船に着く頃にはすっかり消えていましたが、その代わりに靴や鞄は泥だらけとなりました・・・。

最後に貴船神社へ。赤い春日灯篭が並ぶ印象的な参道にも、この日は人がほとんどいない時間帯もありました。しかし貴船神社は縁結びの霊験あらたかということで、若者の参拝者は見かけます。特に一人で来ている方を見かけると、素直に叶うといいなと思います。古くは平安の頃から、幾多の人々の思いを受け止めてきた場所。近年ますます人気を集めています。貴船神社の結社(ゆいのやしろ)のお話は以前、このブログでも書いたことがあります。

この日は奥宮まで行くと、雪が少し残っていました。赤い門に雪は似合います。ただ、こうして積もった雪を眺められるのも、今シーズンは最後かもしれません。この時の気温は凡そ1℃。12月から例年より寒い冬を過ごしてきましたが、いざ最後となると切なく感じました。28日朝の京都の最低気温は-1.4℃まで下がりましたが、もう今シーズンここまで下がることは期待しにくいでしょう。もしかすると氷点下に下がることすら、次回は12月、ないし来年まで待たねばならないかもしれません。季節の終わりを感じられるのも、気象予報士の役得といったところでしょうか。この後、季節は春へと歩みを速めて行きます。遅れていた花や生き物も3月上旬にかけて一気に姿を現わしてくることでしょう。では、恐らく今シーズン最後となる雪景色をお楽しみください。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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