今年も上賀茂神社で笠懸神事を見ることができました。個人的には3年連続の笠懸神事の鑑賞です。
笠懸神事は、毎年10月の第三日曜日に上賀茂神社で奉納される神事です。この日は、嵐山では斎宮行列、泉涌寺の即成院では二十五菩薩お練り供養もあるなど、見ごたえある行事が多い日でしたが、今年は雨の空模様となり、斎宮行列と二十五菩薩お練り供養は、縮小されて行われました。一方、上賀茂神社の笠懸神事は、縮小されることなく雨の中でもいつもと同じ衣装で素晴らしい技を見せて頂くことができました。今年は「らくたび」さんの散策の添乗で訪れたため、団体用のテントの下で雨に濡れず、しかも5つ目の的の目の前という非常によい場所で見ることができました。
笠懸は、神武天皇が筑紫箱崎の浦で馬上から弓を射る稽古をしたとき、かぶっていた笠に皮を張って、これを的にしたことが起こりとされています。騎射の三物として、笠懸・流鏑馬(やぶさめ)・犬追物(いぬおうもの)が平安時代に定められました。笠懸は一定方向の的を射る流鏑馬よりも実践的です。
具体的には、鎧に覆われた人間の急所である「顔」を正確に射ぬけるよう、敵将が顔を上げたり振り返ったところを一矢で仕留めるための訓練として、的の大きさや高さ、位置も異なっています。これを疾走する馬上から正確に射ぬくのですから、まさに日ごろの鍛錬を怠らない達人の技と言えるでしょう。歴史上でも、顔面を射抜かれて命を落とした武将は多く、平将門・木曽義仲・新田義貞らが有名です。
上賀茂神社での笠懸神事は、平成17年になんと800年ぶりに復活しました。笠懸は、現在では主に関東地方での奉納が行われており、関西地区で行われるのは上賀茂神社だけ。しかも神社奉納として行われるのは全国でもこちらだけとのこと。40cm四方の的を射る遠笠懸(とうかさがけ)と、地面低くに立てられた約12cm四方の的を射る小笠懸(こかさがけ)とがあります。
地面低くの的を狙うのは、馬から落ちた武将を狙うためだそうです。奉納されるのは、大日本弓馬会武田流弓馬道の皆様。笠懸神事は、笠懸としては珍しく女性の射手が騎乗します。武者装束姿の騎手が順番に南端から出発し、北端でUターンをして再度駆け抜けます。その間に左右両側に設けた的に向けて矢を放つのです。
今年は、最後の的の目の前で見させて頂きましたが、雨の中でも見事に当てて行く様子は、やはり迫力がありました。的に当たると大きな歓声が上がり、反対に外すと落胆の声が漏れてきます。疾走する馬上から、僅か数秒の間で、矢を取り、構え、狙い、そして当てるというのは、何度見ても素晴らしい神技だと感じます。今年は雨で苦労も多い中だったとは思いますが、こうして見事な技を見せて頂けたことに感謝したいと思います。関係者の皆様は、本当にお疲れ様でした。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。