上賀茂神社 烏相撲 2012年


9月9日は最も大きい陽数(奇数)が重なる重陽の節句。上賀茂神社では、刀祢(とね)と呼ばれる方がカラスの鳴き真似をするユニークな神事や、子どもによる烏相撲の奉納が行われました。

昨日お伝えした台風16号。今日の予想資料では、連休後半から休み明けに九州の西を経て朝鮮半島方面へと進む予報となっています。台風はそれ自体も天気に大きな影響を与えますが、その強力な回転力で気圧配置そのものを大きく変えることができる存在です。今回の場合は寒気を引き込み、来週半ばには本格的な秋が京都辺りにも届きそうな予想となってきました。ちなみにこれが秋も盛りの10月下旬や11月になって、台風が日本の南から東を進んで行くようになると、今度は時ならぬ「冬」を招くことがあります。

さて、9月9日は重陽の節句。かつては陰陽思想にそって物事が考えられ、陰と陽といった相対するものが合わさって完全になるとされました。太陽と月、火と水、男女などが最たるものですが、数字においてもこれ以上分かれない奇数が陽の数、分かれる偶数が陰の数とされました。そして最も大きい陽の数である9が重なる9月9日が、すなわち最も陽の力が強い日として、古くからめでたい日取りとして日本では祝われてきたのです。一方、最も陽の力が強いということは、次の日からは陰の力が強まってくるわけで、中国ではこうした陰の力でもたらされる災いごとを鎮めるために行われる行事でもありました。

上賀茂神社の細殿の前の立砂(たてずな)は、ご祭神である賀茂別雷大神が降臨した神山(こうやま)をかたどったものですが、神山は一つしかないのに立砂が二つあるのも陰陽思想によるものです。そもそも立砂には、神が宿る依り代として松の木を立てていたそうですが、それが簡略化されて、今は片側には3本に分かれた松の葉を、もう一方には2本に分かれた松の葉が刺されています。これも陽の数と陰の数が合わさることで一つになるという思想によっているのです。

重陽の節句は、別名「菊の節句」と呼ばれます。この節句も、もともとは旧暦で行われていましたので、1か月ほど先の菊の花の咲く時期であったのです。菊は天皇家の御紋で、重陽の節句は宮中・公家を中心に重んじられた節句でした。中国には菊の露を飲んで不老長寿を得た菊慈童の伝説があり、長寿祈願・厄除けとして菊酒を飲む習わしが伝わり、上賀茂神社でも菊酒が振る舞われます。ちなみに菊慈童の伝説は、祇園祭の菊水鉾のモチーフともなっています。

烏相撲の前に奉納されるのが「カーカーカー」「コーコーコー」と、烏の鳴き真似をする神事。二人の刀禰代(とねだい)が、烏がピョンピョンと跳ぶように立砂の前へと進み、弓矢や太刀を立てかけます。この跳ぶ数も3跳びづつと決まっており(三々九躍:さんさんくやく)、これも陽の数となっています。続いて立砂の前に座って烏の鳴き真似の所作を行います。このユニークな烏の所作は、上賀茂神社のご祭神・賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)の祖父である賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)が、賀茂別雷大神を喜ばすために従えていた烏族に相撲を取らせたところから来ています。

上賀茂神社の重陽神事の後に奉納されるのが、子どもたちによる烏相撲。相撲を奉納するのは松尾大社の八朔相撲と同じ理由で、実りの時期に害虫や台風による風水害をこうむりやすい今の時期に、神を鎮め無事に実りを迎えられるようにとの思いが込められています。上賀茂神社では相撲児童と呼ばれる氏子の子どもたちが相撲を取ります。子どもは「無邪気」で、すなわち邪気が無い、邪気が入り込む余地がない、ということで、災いごとが払われると考えられているのです。禰宜方(ねぎかた)と祝方(ほうりかた)の二手に分かれ、立砂の上を三周(ここでも陽の数字)した後に、熱戦が繰り広げられました。相撲は総当たりと勝ち抜きとで行われますが、勝ち抜きも3連勝までです。様々な場面で陽の数字が出てくるのが、上賀茂神社の重陽の節句・烏相撲ですね。今年度の斎王代の亀井さんも見守る前で行われました。斎王代は葵祭だけでなく、こうして上賀茂神社のいくつかの神事にも参加されるのが習わしです。

相撲の奉納が終わると、子どもたちと斎王代が記念撮影。続いて、観戦に来ている上賀茂幼稚園の子どもたちとも記念撮影です。烏相撲の最中の園児の「がんばれ~!」の声援も本当に可愛らしく、写真撮影では斎王代の優しい笑顔が印象的でした。さて、烏の鳴き真似の様子や烏相撲は動画もありますので、是非ご覧ください。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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