阪神淡路大震災から20年の節目を迎えました。震災関連の番組を見ながら心が苦しくなることもあります。しかしこうして振り返って当時のことを胸に思い、私自身も含め来るべき次の大地震に備えていただくことで、一人でも多くの命が助かってくれることを願ってやみません。このブログでは、過去に直下型地震や京都での歴史地震についてまとめてきました。乱文ですが、この機会に改めてご一読いただけると幸いです。また、来月以降に実際に現地を歩きながらお話する講座(売上は寄付)も開催できればと考えています。
さて、1月4日に行われた下鴨神社の「蹴鞠はじめ」。2012年以来、3年ぶりに見てきました。蹴鞠はじめの境内は大変な混雑となり、よい場所で見るには遅くとも12時半までには行って場所取りをする必要があるでしょう。蹴鞠が始まってからでは、近寄る事さえできないほどの賑わいです。人の圧力もすごいため、倒れて怪我をしないよう十分にご注意ください。なお、一般的には午後1時半からと各情報サイトでも案内されていますが、1時半からは神事が行われ、実際に蹴鞠が始まるのは例年午後2時頃です。
蹴鞠は、鹿皮で作られた鞠を皮製の沓(くつ)で蹴り上げて、地面に落とさないようにパスを続ける遊びで、勝負を競うものではありません。いかに相手に取りやすい球を蹴ることができるかが重要視されています。蹴鞠は、およそ1400年前に中国から伝わり、日本では独自に発展を重ねて、天皇・貴族・武家から広く民衆に至るまで楽しまれました。しかし、文明開化の明治の世へと変わり、西洋の風習へと移行する流れの中、蹴鞠をはじめとする日本古来の風習は失われつつありました。そこで、明治天皇によって蹴鞠を保存する命が下り、明治36年に蹴鞠保存会が創立され、現在にその技が継承されています。なお、下鴨神社では戦前から蹴鞠の奉納が行われています。
本殿前での神事を終えると、蹴鞠を行う場所(鞠庭:まりば)で「始まりの儀」が行われました。お祓いのため松の枝にくくられていた鞠を外します。これは野球などで言う始球式のようなものだそうです。その後に、鞠を中央に置き、鞠を蹴る人が順番に入りますが、最初の方が一番位が高く、その時の日差しや天候を考慮した一番良い場所に立つことができるそうです。そして各々試し蹴りをして蹴鞠が始まります。
鞠を蹴る時の掛け声には、「アリ」「ヤア」「オウ」の3種類がありますが、この由来には面白い話があります。平安時代の公卿・藤原成通は蹴鞠の名手として知られていました。彼には、恐るべき練習量から来る超人的な逸話が残されています。例えば、蹴った鞠が雲の上まで達した、鞠を蹴りながら清水の舞台の欄干の上を往復した、台盤に乗って鞠を蹴ったが音一つしなかった、など、現代のリフティングの達人も顔負けの技術だったのでしょう。
ある時、成通は蹴鞠の上達のために千日間の練習を行うとの誓いを立てます。努力の末に誓いをやり通した夜、祭壇に置いた鞠が転げ落ちました。成通がその先に目を向けると、なんと!顔は人間ですが、手足と体はサルのような姿をした三人の「鞠の精」が立っていたのです。鞠の精は成通の努力をたたえるとともに、「蹴鞠をする時には、私たちを呼んでください。すぐに参上します。私たちはあなたを守護し、蹴鞠の技をもっと高めると約束しましょう」と告げ、姿を消しました。その鞠の精の名前表記が、夏安林・春楊花・桃園で、そこから蹴鞠の際には、精の名前をそれぞれ「夏安林=アリ」「春楊花=ヤウ(ヤア)」「桃園=オウ」と呼ぶことになったそうです。あの声には精の力を借りる意味があったのですね。また、掛け声を出すことで自分が鞠を蹴るという意思表示にもなっているようです。
今年は楼門などの屋根には前日までの雪も残って風情を感じられました。さらに風が弱く(鞠は軽いため風の影響を受けやすい)、蹴鞠にとっては好条件とあって、2012年に見た時よりもはるかに長くラリーが続いていました。そのたびに観客からは拍手が送られ、雅な足技を例年以上に堪能することができたのではないでしょうか。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。特技はお箏の演奏。