新町通と松原通の交差点を「十念の辻(十念ヶ辻)」と呼びます。
「十念の辻」と聞いてもおわかりになる方の方が少ないかもしれません。京都には東山の「六道の辻」や、御所の北東の「猿ヶ辻」、洛西の「帷子の辻」など、様々な交差点(辻)があります。新町通と松原通が交わる場所は、現在はありふれた風景の街中の交差点ですが、かつては「十念の辻」と呼ばれていました。
十念の辻は、十遍の念仏を唱えて来世での往生を願う辻という意味で、念仏を聞かされたのはこれから処刑場へと向かう罪人でした。松原通は平安京時代の五条大路として知られますが、早くも平安時代から五条以南は廃れ、通りは都の南端の道=境界の道として認識をされていました。松原通を東に進み鴨川を越えると、葬送の地である鳥辺野へと通じ、辺りの辻は「六道の辻」とも呼ばれます。こうした由緒から、松原通はあの世とこの世を繋ぐ道ともみなされていたのです。
その概念は江戸時代でも引き継がれ、罪人が死刑を執行される前の市中引き回しでは、六角獄舎より三条通から油小路通を経て、都の北端である一条通へと向かい、来世はまっとうな人間に戻れるようにと戻り橋を通過します。ここで馬から罪人を降ろし、仏花や餅が与えられました。そして再び馬に乗せられ、人が多い繁華街である室町通を南下。三条で右折をして新町通を南へ下り、松原通に達しました。ここで寺町高辻にある浄国寺の僧が待ち構えて、罪人に十遍の念仏を送ったそう。わざわざ寺町通の浄国寺から僧がやってくるのは、たまたま寺の和尚が托鉢中に引き回しの列に出会って十念を授けたことがあり、以後慣例となったと伝わっています。新町松原は東西の刑場への分岐であることに加え、南には道祖神社があり、その由緒からこの地が最後の念仏の地とされたのだとか。
この「十念の辻」から、一行は東の刑場である粟田口か、西の刑場である西土手刑場かへと分岐して行きました。毎年12月20日は「果ての二十日」と呼ばれる仕事じまいの日で、その年最後の処刑も行われていました。罪人は市中引き回しを受ける道のりの間に、やはり残された時間やこの世への未練があってか、男女問わず道で目に入った人を、やれ許嫁だとか親類だとか言い出して同行を求めることもあったのだそう。役人も罪人に最後に暴れられても困るため、その人たちの同行を促したといいます。罪人は馬上に乗せられるため道筋の家の2階がよく見えたので、京町家の2階は虫籠窓(むしこまど)として外から中が見えにくいにくにようにしたとも(異説あり)、特に婦女子はこうした難を避けるため「果ての二十日」には外出を控えるようになったともいわれます。今では「果ての二十日」は過去のこととなりましたが(だだし京都検定のテキストには載っています)、新町通松原下るの道祖神社の看板には「首途(かどで)の社」の文字があり、神社には道案内の神であるサルタヒコが祀られているというのも興味深いところ。何気ない街角でも、京都の深い歴史の面影を偲ぶことができます。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2016」監修。特技はお箏の演奏。