昨晩から今朝にかけて、京都府全域で激しい雨が降り、桂川や由良川などの大きな河川を中心に激しく増水。渡月橋が今にも飲みこまれそうな衝撃的な映像も流れました。
昨晩から京都は雨脚が強まり、1時間に30mmを超える激しい雨が広範囲で降り続きました。夕方の段階では気象台の予想は多いところで200mmの雨でしたが、そのペースを超える勢いで降り、結果的には多いところで300mmを超え、多数の観測点で200mmを超えてしまいました。この数字は記録的で、過去30数年の観測史の中で観測史上1位を観測した場所が京都・滋賀を中心とする観測点で続出しました。
京都地方気象台は23時過ぎに情報を出し、日付の変わる0時頃から実質翌朝にかけてさらに200mmが降ると予想を見直しました。土砂災害の危険が高まるとともに、激しい雨が広い範囲で降り続いたために、大きな河川で水位が上昇。今朝5時過ぎには史上初の「特別警報」が発表され、携帯への通知メールで目を覚ました方もおられたと思います。水位がピークを迎えた今朝には、桂川や由良川沿いを中心に浸水被害が発生しました。
実は、個人的には昨晩から雨や河川の様子が気になって眠れず、徹夜で朝までFacebookで情報を発信し続けていました。もういてもたってもいられないという心情です。恐らく夕方の段階ではこれほどの災害になることは、多くのところで予想できておらず、自治体の避難情報や気象台の注意喚起も後手に回っている感がありました。私も大いに反省をしていまして、もっと早く警戒を呼びかけられなかったかと自問自答しています。
事後で申し訳ありませんが、雨の要因を考察してみます。もともと台風が紀伊半島沖を進むコースは京都府下全域で大雨となりやすく、特に丹波高地で雨量がかさむ傾向があり、京都にとっての大雨コースではあります。また、通常日本付近に近づく台風は衰えながらやってきますが、今回は日本近海の海水温が高く、発達最盛期でやってきたことも大きいでしょう。陸地にぶつかっても勢力が削られる感じではなく、気象衛星画像でも積乱雲の形がしっかりしていました。
また、台風が大型であったため、その回転の曲率が緩やかで、台風が進んでもあまり大きく湿った空気が流れ込む角度(南東風)が変わって行かなかったことも、長時間雨が続いた理由の一つではないでしょうか。加えて、丹波高地は1000mを超える山がありません(実は京都府は、沖縄県と千葉県と並んで1000m以上の山がない、たった3つの都道府県のうちの1つです)。今回は台風に向かうほぼ真北の風が、日本海側から丹波高地を経て大阪湾に向かって強く吹いていました。そして東海地方の三重県側から非常に湿った南東風が吹き込んで、この南東風と日本海側からの北風が京都付近でぶつかる状態が続き、京都の広範囲で大雨を降らせたと、個人的に推測します。(気象台等の公式見解ではありませんので、以上の推論の取り扱いにはご注意ください。)
降り続く雨によって、16日未明には見る見る間に河川の水位は上昇。嵐山の渡月橋の橋げたスレスレまで水が来ている衝撃的な映像がKBS京都で中継されているのを見た時は、非常にショックを受けました。その頃には、上流部の水位経過やレーダーの様子から、さらに水位が上がることも予想できたためです。桂川の水位は今朝ピークを迎え、渡月橋を中心とする両側に濁流が流れ込みました。周囲は旅館も多く、宿泊客がボートで助け出される場面が報道されています。
鴨川も水位が上昇し、荒神橋の観測点では一時「氾濫危険水位」を超えました。詳細は分かりませんが、鴨川は過去80年ほど大水害がありませんので、各地の観測点で記録がある中では史上最高の水位を観測しているかもしれません。こうして記録的に水位が上がった鴨川と、桂川とが合流する下鳥羽の一帯は広範囲で冠水していました。
私は夜が明け次第、今後河川の危険を伝えるための資料集めとして、カッパに長靴、ヘルメット姿で安全には留意しながら、鴨川の様子を見に行きました。調度、水位が最も高い時間帯で、三条大橋の下流は激しい濁流が渦巻き、普段カップルが座る高水敷という場所は完全に水没。流れの激しさと轟音は想像を絶していました。もしこの水が市街地に流れ込むと想像するとゾッとするほどです。平安時代末期の権力者・白河法皇が、意のままにならないものの筆頭に鴨川の水を挙げた気持ちも実感できます。幸いにも、この辺りから川が溢れることはなかったようですが、鴨川の持つ凶暴な一面をまざまざと見せつけられました。
その後、鴨川を遡って行きました。「氾濫危険水位」前後ではありますが、この辺りはまだ余裕があるようには見えます。川端通もいつも通り車が走っています。ただ、明らかに様子が異なるのは生き物たち。カラスは、私のすぐ隣1mほどのところから動かず、怯えるようにカーカーと鳴き、鴨などの鳥も岸に上がって避難をしていました。その他、オオサンショウウオが岸にいたという目撃談もニュースではありました。
出町柳も普段とは全く雰囲気が異なっていて、飛び石などは見えず、ただ2つの濁流の川が勢いよく合流するのみでした。同じ場所とは思えないほどです。さらに少し上流の賀茂川のほうまで行ってみても、水は勢いよく流れ下っていました。荒れ狂う鴨川の動画も撮影してきました。普段とは違う川の様子を見て頂いて、京都でもこうした洪水が起こりえることを知って頂ければと思います。仮に今回の台風の進行速度がもっと遅ければ、さらに水位が上がって、被害が拡大していた恐れもあります。そしてこの後、私は嵐山へと向かいました。その様子は次回以降に書きたいと思います。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
気象予報士として10年。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。