旅の日 京都を訪れた旅人たち

祇園白川にて
5月16日は「旅の日」。松尾芭蕉が「奥の細道」へと旅立った日から来ているそうです。今回は京都を訪れた旅人について、つれづれと書いてみます。

かにかくに碑「かにかくに 祇園は恋し 寝(ぬ)るときも 枕の下を水のながるる」。明治43年5月、吉井勇23歳の時、生まれて初めて得た原稿料10円を持って訪れた、人生3回目の京都。友人と遊んだ祇園で、この歌は生まれました。若き日の一首が、その後の勇の人生を開くことになります。勇が訪れたのも5月のこと。ちょうど今のように緑がまぶしい光景だったのでしょう。

高山彦九郎の像祇園白川の程近く、三条大橋に像が立つ高山彦九郎も旅人でしょう。彦九郎は「寛政の三奇人」の一人にも数えられる群馬県太田市出身の武士で、13歳にして太平記を読み、南朝の悲話に心を動かされ、さらに自らの先祖が後醍醐天皇に仕えた新田氏であることを知ると、天皇を敬う勤皇の志に目覚めます。そして、明和元年(1764年)18歳の時、学者を志して遺書を残して家出をし、はるばる京都の地へとやってきました。当時はまだ幕末が100年も先の江戸時代の真っただ中。勤皇の志を抱くことは、時勢に逆らうことで、よほどの覚悟を持っていたことでしょう。こうして初めて京都にやってきた彦九郎。東海道の終点である三条大橋に着くと、御所の方角を向き、御所におわす天皇に向かって伏し拝みました(望拝)。彦九郎は入京するたびに御所の方を伏し拝んだといわれます。

松尾芭蕉の句碑旅の日の由来ともなった松尾芭蕉の「奥の細道」。序文冒頭の「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」の一節は有名です。芭蕉は、奥の細道とは別の旅で何度か京都を訪れて句を残しています。鳴滝にあるその名も「鳴滝」のたもとには、松尾芭蕉の句碑があります。「梅白し 昨日や鶴を 盗まれし」。芭蕉は42歳の時、鳴滝にある三井秋風(みつい しゅうふう:俳人で商人)の山荘を訪ね、咲いていた白梅にかけて詠んだ歌です。白梅が見事に咲いて、宋代の詩人・林和靖(りん なせい)の庵に居るよう心地がするけれど、しかし(彼と一緒にいるはずの)鶴が見当たらない。昨日にでも盗まれてしまったのだろうか。といった意味です。

鳴滝にある「鳴滝」林和靖は、梅を妻に、鶴をわが子に見立てて大切にし、生涯独身で通したのだそう。さて、恐縮した秋風は「杉菜に身擦る牛二ツ馬一ツ」と、脇をつけました。そんな大層なものはおりません、いるのは杉菜に身をこすりつける二頭の牛と、一頭の馬ばかりですよ。と。なお、このころの芭蕉は、旅をしながら歌を詠んだ西行に憧れ、俳諧の道を深めようと、亡くなった母の墓参りも兼ねて伊賀上野や奈良・京都・大津・大垣などへと旅をしました。その出立時には「野ざらしを 心に風の しむ身かな(今度の旅で行き倒れて野ざらしの骨になろうとも、それを覚悟している)」と読み、旅の句はのちに「野ざらし紀行の旅」として発表されました。有名な奥の細道の旅は、さらに後年のことになります。

玉川堤の桜と山吹芭蕉と少し関わりがあるといえば、京都の南、井手町があります。井手の玉川は万葉の時代から「蛙(かわず)」の鳴き声が美しい場所として有名な場所でした。蛙と言ってもゲロゲロと鳴く蛙ではなく、カジカガエルという大変鳴き声のよい蛙です。芭蕉はある句会で、最初に「蛙とびこむ 水の音」と下の句を読み、弟子たちに上の句を考えさせました。弟子の其角(きかく)は、蛙から井手を連想し、同じく井手の花として名高い「山吹」を上の句に選んで「山吹や 蛙とびこむ 水の音」としてはどうかと提案しました。山吹と付けることで井手を暗に示すと同時に、明るく華やかな光景をイメージさせます。

井手町 蛙塚にてしかし、芭蕉は、ある意味ありがちとも言えるその句をよしとせず、「古池や」と付けてはどうかと言いました。静けさただよう古池に、ポチャンと蛙が跳び込む音が響く・・・。山吹とは全く印象の異なる句となりました。芭蕉の句はこうした試みが当時としては斬新で、評価を得て行ったのです。なお、芭蕉自身も井手を訪れたことがあり「山城へ 井出の駕籠かる しぐれかな」、「山吹や 井出の長者を 年の宿」という句を残しています。・・・と、既に日付をまたいでしまいました。京都を訪れた旅人について書こうとしたのですが、芭蕉だけでほとんど終わってしまいました。締りがありませんが、今日はこの辺りで。

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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年以上。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。2011年秋は京都の紅葉約250カ所、2012年春は京都の桜約200カ所を巡る。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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