中秋の名月 月が大きく見える理由


もうすぐ中秋の名月。今年は9月12日です。この日は昔から、観月の絶好日として知られてきました。しかし中秋の名月が満月とも限らないことを知っていますか?また、月と言えば気になるのが地平線でなぜ大きく見えるのか。今回はその謎をご説明します。

中秋の名月の不思議

中秋の名月か仲秋の名月か、どちらの表記が正しいのでしょうか。 答えは「中秋の名月」です。旧暦の秋は7月~9月ですが、その3ヶ月の真ん中、8月が「仲秋」と呼ばれました。そして仲秋のさらに真ん中、すなわち「秋」のど真ん中である旧暦8月15日に見える月が文字通り「中秋の名月」なのです。

昔、中秋の名月の月を会社の窓から見ながら思ったことがありました。「まん丸じゃない!」 と。そもそも中秋の名月とは何ぞや?ずばり「旧暦8月15日の月」。ただそれだけでした。 満月とは必ずしも一致しないのです。旧暦は月の満ち欠けを元に日にちを決めていて、まず新月が1日目。月の満ち欠けの周期は約29.5日なので、15日目はちょうど半分=満月となるはずですが、実は月の軌道が「楕円」であるため、旧暦の15日が必ずしも満月とは限らないようです。なるほど「旧暦の8月15日=中秋の名月≠満月」なのにはそんな理由があったのですね。ちなみに今年は満月と中秋の名月が一致し、これは6年ぶりとのことです。

人は空を扁平に見ている

さて、地平線に浮かぶ満月や沈み行く太陽が、不気味なほど大きく見えるのを皆さんも体験されたことがあると思います。月と地球の距離はおよそ38万キロ。理論上、月が地平線上にあろうが、空のてっぺん(以下、天頂)にあろうが、月の見かけの大きさほとんど同じはずです。(本当は”天頂の月”の方が、地球の半径分の0.64万キロだけ地球に近いので、僅かに大きく見えるのかもしれませんが)
では、なぜ地平線まぎわの月は大きいのでしょうか。実は、古代ギリシャ時代からその理由は謎とされ、今も定説はありません。 ただ、私が「なるほど!」と思わされた、科学的な根拠を元にその謎を解く仮説を紹介しましょう。なお、元ネタは倉嶋厚氏の著書によります。

まず結論から言うと、地平線の月が”相対的に”大きく見えるのは、「人は空を扁平に感じている」から。 ”相対的に”と書いたのは、この仮設では実は月が小さく見える方が本当は目の錯覚だからです。では、具体的に「人は空を扁平に感じている」とはどういうことかをご説明します。

空の形は、理論上はプラネタリウムのように、半球であるはずですが、人はそう感じていません。これは以下のように証明できます。「外に出て、地平線と天頂の真ん中を指差してみてください。」 はい!と指差したその腕の角度が重要!早速、小学校にある巨大分度器で角度を測ってみましょう(一般家庭には無いですね)。 もし、人の感じる空が「半球」であれば、地平線と天頂の真ん中を指差したとき、腕の角度は45°になるはずですね。

ところが、実際は晴れた日であれば角度は30°程になります。空が低い雲で覆われていれば、さらに角度は小さくなります。ここで、図1をご覧下さい(適当な図ですいません)。地平線と天頂を結ぶ線の中点と、観測者を結んだ線の角度が30°になるような図を書くと、このように扁平な楕円になります。

つまり、人が感じている空は「水色の部分」だということです。コンタクトレンズみたいな形でしょうか(ちなみにこれは概念図なので、細かい角度や線は不正確です)。ご納得いただけましたか?さて「人は空を扁平に感じている」ことを踏まえた上で、月が大きく見える理由を考えてみましょう。

月が大きく見えるわけ

さて核心です。ここで図2をご覧下さい。真ん中付近の線が集中している部分に観測者がいると思って見て下さい(これまた適当ですいません。)。…というわけですね。つまり、真実の月は図の外側の円(天球)上を進みます。この天球は半円であり、天球上では地平線だろうが天頂だろうが月の大きさは変わりません。ところが「人は空を扁平に感じている」ので、月の見かけの大きさも扁平な空に合わせて図のように投影されて感じるのです。そのため、相対的に地平線の月ほど大きく見える。そして、地平線の月のほうが真実の月の大きさに近いのです。

「扁平の空」は地平線から離れるほど急激に天球との投影距離が長くなるので、月が上るにつれ、月の大きさはあっという間に小さく感じるようになります。”天頂の月”の投影された大きさと、”天頂と地平線の中点の月”が投影された大きさは、見た目があまり変わりませんね。そのため、小さく見えている時間の方が圧倒的に長く感じるため、人間は真実の月の大きさに近い「地平線の月」のほうを「あれは大きいし、錯覚だろう」と感じてしまうようです。
最後に。ではどうして「人は空を扁平に感じる」のでしょうか。その理由は、人の目が垂直方向の視野が狭いからだと考えられています。また、狩猟をして穴ぐらに暮らしている民族と、農耕をして広い平地に住んでいる民族とでは、明らかに空の見え方(感じ方)が違うそうです。地平線にあるものが相対的に大きく見えるのは遠くの獲物を探すためなのか、はたまた新たな土地を見つけるためなのか。どうやら、私たちの祖先が進化の過程で残してくれた、特殊能力なのかもしれません。なんとも不思議ですね。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として9年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。散策メニューはこちらから

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