天橋立を見下ろす傘松公園からバスでも行けるのが、西国三十三所観音霊場28番札所の成相寺。9日に訪れると石楠花(シャクナゲ)の花が咲いていました。
成相寺は、慶雲元(704)年に、文武天皇の勅願で真応上人によって開かれたという古寺です。西国三十三所観音霊場の28番札所として知られています。西国の観音霊場は京都市を除く京都府下では、21番の穴太寺、29番の松尾寺があります。成相寺へは自家用車で急な坂道を上るほか、傘松公園の上からバスで行くことができます。専用の道路を通るため、バスの乗り場で成相寺の拝観料も払います。バスは20分に1本と本数が多いため、気楽に行くことができます。私は今回はレンタカーで向かいました。
バスの専用道はなかなか険しく、山深い場所に成相寺があることが分かります。元々山岳修験の寺として「聖が住む所」としても信仰されたような場所ですのでその険しさも頷けます。だからこそ成相寺は願いが叶う寺ともされました。本尊の聖観世音菩薩は、小野小町も信仰をしたとされ美人観音として信仰を集めてきました。
成相寺にはこんな伝説も伝わっています。その昔、ひとりの僧が草案にこもって修行をしていましたが、雪が深く降り積もって人の行き来が絶え、ついには食料も尽きて何ひとつ食べるものが無くなってしまいました。死を予感した僧は「今日一日生きる食物をお恵み下さい」と観音様に祈ったところ、夢とうつつともわからぬ中で、外に傷ついた鹿が倒れているのに気がつきました。僧は肉食の禁を破ることに思い悩みますが、命にはかえられず、決心して鹿の腿(もも)をそいで鍋に入れて煮て食べてしまいました。
やがて雪が消え、里人が登ってきて堂内を見ると、本尊の腿が切り取られ、鍋の中に木くずが散っていました。それを知らされた僧は、観音様が身代わりとなって助けてくれたことを悟り、木くずを拾って腿につけると元の通りに合わさりました。この伝説より寺は願い事が成り合う(相)寺、成相寺と名付けられたといいます。…なかなか壮絶な由緒譚です。京丹後は豪雪地帯ですので、こうした雪にまつわる伝説もさもありなんと思わされます。
さて、成相寺には、もうひとつ衝撃的な話が伝わっています。それが「撞かずの鐘」。慶長14(1609)年のこと、寺が新たな梵鐘を作ることになり、近隣住民に寄進を求めたところ、裕福そうな女房が「子どもはたくさんおるが、寺へ寄進する金はない」と断ってしまいました。やがて鋳造の日、大勢の見物人の中に例の女房も乳飲み子を抱いて見物していました。ところがあろうことか誤って銅湯の入ったルツボの中に乳飲み子を落としてしまったのです。鐘は出来上がりましたが、撞いてみると乳飲み子の悲しい鳴き声が聞こえてくるため、人々は乳飲み子の成仏を願い、この鐘を撞くことをやめ、以後「撞かずの鐘」と呼ばれるようになりました。現在も、この撞かずの鐘は鐘楼の中にあり、伝説を伝えています。石楠花(シャクナゲ)の花はこの鐘楼の付近に綺麗に咲いていました。時期的には見頃は来週頭くらいまでかもしれません。
さて、バスを降りて階段を上ると成相寺の本堂。巡礼の方々もおられ、現在でも厚い信仰の寺であることを感じます。堂内で手を合わせ、上を見上げると、左甚五郎の「真向きの龍」があります。江戸時代に雨乞いのために龍の彫刻を奉納することになり、ちょうど宮津に滞在をしていた左甚五郎に依頼がありました。しかし左甚五郎は龍を見たことがないため彫ることができません。そんな折に夢の中で龍の棲家を教えられ、早速夢で教えられた川の奥地の滝つぼに降り立ち、岩の上に正座して3日間祈るとついに龍が姿を現して天空へと昇って行きました。こうして真向きの龍の彫刻が完成したといいます。珍しく正面を向いた龍の彫刻で、左右どちらから見ても自分の方を向いているように見えるとされます。
境内には他にも見どころがあり、智恩寺と同じ鉄湯船や、近年復元された鎌倉様式の五重塔は、平成五重塔と呼ばれて木々の間に見事な姿を見せています。また、弁天山展望台へはやや登りますが、天橋立や宮津湾を望む大変美しい眺めを楽しむことができます。
また、自家用車やレンタカーでお越しの方はお寺の駐車場からさらに上がった先の「パノラマ展望台」へ行ってみるのもおすすめ。こちらは天橋立や宮津湾を標高500mの高所から一望できる素晴らしい絶景が待っています。カフェの美人茶寮もありますが、訪れたのは平日だったためか閉まっていました。この眺めでゆっくりできるのは最高ですね。由緒ある山岳寺院の成相寺。機会がありましたら、ぜひ足を延ばしてみてください。
「京ごよみ手帳2019」訂正のお知らせ
・P39の三十三間堂「楊枝のお加持と大的大会」の日程が1月14日となっていますが、正しくは「1月13日」です。
・P225の「京都御所」のデータで、2番の休みは「月曜(祝日の場合は翌日)・年末年始・臨時休あり」です。
ご迷惑をおかけいたします。
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ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)
第15回・第14回京都検定1級(合格率2.2%)に2年連続の最高得点で合格。気象予報士として10年以上。京都検定マイスター。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳」監修。特技はお箏の演奏。